奇瑞に続き、スペイン自動車産業に中国自動車メーカー進出の新たな動き。
スペインメディアが業界関係者の情報として報じたところによると、吉利はフォードのスペイン工場の一部を買収することで合意し、同地で自社モデルを生産する計画。吉利はコメントを控え、フォードは「噂」としている。
この取引が成立すれば、吉利はスペインに生産拠点を持つ中国自動車メーカーとなる。
今回の「主役」は吉利
報道によれば、吉利が買収するのはフォードのアルムサフェス工場内の第3組立工場。同工場はバレンシア州に位置し、フォードの南欧における重要生産拠点。モンデオなど定番モデルを生産し、高い生産能力とサプライチェーンを有していたが、EVシフトに伴い第3工場は長期休止状態に。

吉利は工場全体ではなく一部を「部分承接」することで初期投資を抑え、既存の生産ラインを活用し、量産までの期間を短縮する狙い。また、吉利がフォード向けに車両を生産する可能性も協議中だが、未確認。
中国メーカーの欧州展開において、吉利が初めてではない。奇瑞はスペイン企業Ebro Motorsとの合弁でバルセロナの日産旧工場を活用し、現地量産を実現。今年2月には、吉利が技術供与について広範囲な協議を行っているとロイターが報道。今回の買収話は、吉利の欧州現地生産への実質的な一歩となる。
複数の中堅企業から進出情報
今年に入り、複数の中国自動車メーカーがスペインでの工場建設や生産拡大の動きを見せている。長安汽車はスペイン北部、特にアラゴン州での工場建設を検討中。上汽グループのMGは欧州工場計画を進め、スペインにEV工場を建設し、EUの高関税に対抗する方針。MG Motor欧州責任者は、欧州で年約30万台の販売規模なら現地生産は合理的と述べ、早ければ来年にも生産開始の可能性を示唆。

零跑汽車はStellantisのサラゴサ工場を活用し、奇瑞はカタルーニャ州で組立を開始。スペインのSantana Motorsは東風汽車、北汽集団と提携。電池大手CATLはStellantisとアラゴン州に41億ユーロを投じ、LFP電池工場を建設予定。
中国メーカーがスペインを選ぶ理由は、市場、産業基盤、政策環境にある。欧州自動車工業会のデータによると、2026年3月の中国メーカーのスペイン販売台数は1万8000台、前年比84.9%増で市場シェア14%に。スペインはバルセロナ、バレンシアなど深水港を持ち、地中海・大西洋市場や北アフリカ、ラテンアメリカへのアクセスに優れる。また、フォルクスワーゲン、ルノー、Stellantisなどが長年拠点を置き、部品サプライチェーンと熟練労働者が豊富。スペイン政府はEV投資に税制優遇、土地支援、低利融資などの優遇策を提供し、例えばEnvision AESCのプロジェクトには2億ユーロの補助金と1億ユーロの融資が支給された。
輸出から現地生産へのシフトは、EUの貿易障壁への対応であると同時に、グローバル戦略の必然的な結果。吉利、奇瑞、上汽、零跑などの進出により、スペインは中国車の輸出先から、中国メーカーの欧州における製造ハブへと変貌し、中国とスペインの自動車産業協力は新たな段階に入りつつある。
